地域の生産者と自治体が協力しあって「自然と共生する農業」をつくっていく。塩谷町

栃木県塩谷町

写真)土壌サンプルの採取に訪問した時の前山どんぐり坂(2025年5月1日)

土壌サンプル採取日

2025年5月1日

土壌診断 項目

菌根共生率、菌根菌胞子数

土壌診断レポート

考察

1.森林

前山どんぐり坂(圃場1)

■植生:入り口付近はコナラ、クリ、イヌブナなどの落葉広葉樹、上るにつれてスギ、ヒノキなどの常緑針葉樹が増える針広混交林でした。林床には小低木のヤブコウジ、ヤマツツジ、コナラの幼木などが観察されました。落葉で覆われた地面には分解途上の植物断片も多く観察され、土壌生態系がしっかりと機能している事が示唆されました。
■菌根菌検査:林床に比較的多かったヤブコウジ(幼木)の根を対象に菌根共生を調べました。その結果、アーバスキュラー菌根菌(AMF)との非常に高い菌根共生率が確認されました。また、根圏土壌中にも極めて多くの菌根菌胞子が確認されました。さらに、胞子の色が数種類あることから、AMFの多様性も高いことが示唆されました。アーバスキュラー菌根菌は森林土壌で複数の植物と共生することが知られていますので、この一帯の森林土壌には膨大な数の菌根菌が生息し、森林植生を支えていると思われます。

塩谷町町有林(野球場横)(圃場2)

■植生:生物多様性センター植生図によるとこのエリアは「ヤマツツジーアカマツ群集」ですが、実際には植林されたと思われるスギが多く、それ以外には、高木としてクリ、シデ類など、亜高木のクロモジ、カエデ類など、低木はヤマツツジ、ガマズミ、ムラサキシキブなどが見られました。アカマツ林からの植生遷移が進行中であると推察されます。地面にはこれらの幼木とともに、チゴユリ、テイカカズラなどが見られました。
■菌根菌検査:比較的多くみられたスギの幼木の根を対象に菌根共生をしらべました。その結果、アーバスキュラー菌根菌(AMF)との非常に高い菌根共生率が確認されました。また、根圏土壌中にも極めて多くの菌根菌胞子が確認されました。さらに、胞子の色が数種類あることから、AMFの多様性も高いことが示唆されました。前山ドングリ坂と同様に、このエリア一帯には膨大な数の菌根菌が生息し、森林植生を支えていると推察されます。

まとめ

植生の異なる2地域で非常に多くのアーバスキュラー菌根菌(AMF)が確認されました。このことから、塩谷町の山林一帯には天文学的な数のAMFが生息し、森林の土壌生態系と植生を支えていることが示唆されました。AMFは農業生産においても有用なため、森林に生息するAMFを生物資源として位置づけ、保全しつつ、その一部を農業生産に活用することは可能であると考えます。

2.農地

農薬・肥料不使用の水稲育苗圃場(圃場3)

■特徴:尚仁沢湧水から流れる東荒川の清流をひき、塩谷町では最も標高の高い水田エリアで(標高400m超)、無施肥・無農薬栽培を行う水稲圃場です。
■菌根菌検査:苗床専用の圃場に生えるノビエを対象に検査を実施しました。上表で示したように共生率、壌中の胞子数ともに極めて少ない値でした。周囲の山林には菌根菌が生息すると思われますが、過去の水稲栽培の農薬の影響が残ると推察いたします。

農薬・化学肥料使用の水稲圃場(湛水前)(圃場4)

■特徴:荒川流域の塩谷町南東部の広い水田地帯のほぼ中央に位置する慣行水稲圃場です。春(湛水前)の水田の代表的な雑草として知られるスズメノテッポウ(俗称:ピーピー草)が点々と出現していました。
■菌根菌検査:スズメノテッポウを対象に検査を行いました。上表に示す様に、菌根菌は全く不在でした。

塩谷町実験圃場(圃場5)

■特徴:町役場の横に位置する実験圃場です。小学校付近の圃場では、例年水稲の栽培実験や体験会を行っているとの事です。
■菌根菌検査:畑地エリアで栽培されていたシュンギクを対象としました。極めて低い共生率でしたが、土中には少数の菌根菌胞子が確認されました。施肥量を抑えるなどの条件を整えることで、菌根菌をより活用できる可能性があると考えます。

まとめ

いずれの圃場も菌根菌不在か、少ないという結果でした。農薬や施肥量の影響と推察いたします。ただし、無施肥・無農薬の水稲圃場では、森林土壌を活用することにより、菌根菌が再定着する可能性があります。

土壌診断結果を受けて(塩谷町コメント)

塩谷町は栃木県の中央に位置し、人口9,590人(2025年4月1日現在)の町です。環境省の名水百選にも選ばれた「尚仁沢湧水(しょうじんざわゆうすい)」を抱える森は、町の7割を占めています。また、稲作をはじめとする農業も盛んです。

豊かな自然資源を守り未来につなぐ町づくりを目指して、令和5年4月14日にはオーガニックヴィレッジ宣言を、令和5年11月18日にはゼロカーボンシティ宣言を出しています。

塩谷町では、町に移住し農業に取りくんでくださる方を対象に、家や自動車、農地の支援を行っています。おかげさまで、令和7年度の地域おこし協力隊は定員となっていて、4名の方が農業に取りくんでいます。

今回の土壌診断の結果は、地域の生産者とも共有していて、ぜひ自然と共生する農業を進めるために、勉強会を開催するなどして、学びを深めて、農業に活かしていきたいと考えています。

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